自転車の楽しさは、全身で風を感じながら、自分の力だけで遠くまで行けるところにあります。しかしながら、この爽快感は生身の体をスピードにさらすリスクと隣り合わせであることも否定できません。さらに欧米ほど自転車道の整備が進んでいない日本では、自転車を取り巻く環境は、恵まれたと言うにはほど遠いもの。狭い道で高速の自動車に追い越されヒヤリとしたことがある、という方は多いのではないでしょうか。
自転車という素晴らしい乗り物を安心して楽しむために、そしていざというとき、大切な人を悲しませないために―。正しく活用すべきアイテム、それがヘルメットなのです。
軽車両である自転車は、基本的に車道を走ることが義務づけられています。生身の体をさらして、数十キロものスピードを出した鉄のかたまり=自動車と同じ道を走るのですから、その危険性は知っておかなければなりません。リスク低減のために踏むべきファーストステップ、それがヘルメットの着用です。
ところが道路交通法の規定では、13歳未満の子供については着用の努力義務が課されているものの、大人については特に規定がありません。つまり、大人はヘルメットを着用していなくても法律違反にはならないということ。実際に街を見渡してみると、いわゆるママチャリや通学用自転車に乗っている人で、ヘルメットを着用している人は非常に少ない印象を受けます。街乗り程度でヘルメットなんて大げさで恥ずかしい、面倒くさい……心の内はそんなところでしょうか。
しかし統計によると、自転車乗車中の死亡事故は全体の約1割(※1)。これは決して軽視できる数字ではありません。そのうち頭部損傷によるものは全体の64%を占め、死因のトップとなっています。運良く死を免れても、脳に損傷を負えば後遺症が残ることも多く、頭は守るべき最重要箇所といっても過言ではありません。そして、ヘルメットを正しく着用することで死亡する割合は約1/4にまで低減するというデータも(※2)。
これらのデータは、ヘルメットがあれば助かった命、流さずに済んだ涙が数多くあったということを示しています。まさに、ヘルメットの着用が明暗を分けるという現実がここにあります。
そういった重要性から、自治体ごとにヘルメット着用を努力義務とする条例制定の動きは、確実に広がっています。その普及率に格差はあるものの、近い将来「自転車に乗るときはヘルメット」という意識は高まっていくでしょう。
衝撃から頭部を守る以外にも、ヘルメット着用にはさまざまなメリットがあります。たとえば、よく見かけるスポーツタイプのヘルメットは通気性にすぐれ、熱中症から頭を守ってくれます。もちろん、ひさしの付いたものを選べばUV対策にも。また、ドライバーへのアピールというメリットも見逃せません。よく目立つヘルメットは、ここに自転車が走っていますよというメッセージを発信しています。ドライバーの認識を促すことで結果的に事故リスクの低減につながるのです。
とはいえ、やはり近所のスーパーまで行くのにスポーツタイプのヘルメットは抵抗がある、という人は多いでしょう。そんな街乗り用のニーズに合わせ、最近は布製アウターと組み合わせたおしゃれなヘルメットも販売されています。安全性においてはスポーツヘルメットに劣りますが、ヘルメットをしないより確実に頭部を守ってくれることは事実。普段着でママチャリだからヘルメットは合わない、だから被らない。そう考えている人にぜひおすすめしたいアイテムです。
では、ヘルメットを被ってさえいれば良いのかと言うとそうでもありません。いざというとき、ヘルメットの性能を十分に発揮するためには、フィッティングがとても重要です。購入時にはぜひ試着をして、自分の頭の形に合うかどうかをチェックしましょう。まずアジャスターとあごストラップの長さを調節し、フィット感を確かめます。そして乗車時には必ずストラップをきちんと締めること。いざというとき、ヘルメットが脱げて飛んでしまっては何の意味もないからです。
そして、心理的にヘルメットに頼りすぎてしまうのも問題のひとつ。ヘルメット着用時はクルマと自転車との距離が短くなる傾向がある、というデータもあります(※3)。あくまでも安全を確保するのは自分自身。常にセイフティーライドを心がけ、ヘルメットは万が一のための保険と考えましょう。
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