第3回目は、トライアスロンの選手として名高いエシカル人・白戸太朗さんにお話を伺いました。アスリートとしてだけではなく、「株式会社アスロニア」の代表として、また社会にスポーツを広めるスポーツナビゲーターとして、各方面で精力的な活動を展開されています。目を輝かせてスポーツの魅力を話してくださる白戸さん、とにかく人を惹き込むオーラがすごいんです!
今回は自転車の魅力からはじまってスポーツが人生で果たす役割の大きさ、子供たちに与える影響、そしてリスク回避の方法まで、幅広く語っていただきました。
白戸さんにとって自転車の楽しさとは?
自転車は地球を感じることができる、一番の遊び道具です。
自転車は何といっても、自分の力で遠くまで行けるというのが一番。お金も何もなかった子供の頃、僕らが持っていた最大の道具が自転車でした。自分の足で世界を広げていくあのワクワク感は、大人になった今でも同じ。新幹線や車、飛行機といった文明の力で移動するのと、自分の力で移動範囲を広げていくのとは、ぜんぜん意味合いが違う。
たとえば匂いや風、ちょっとした道の勾配…車で移動してしまったら見過ごしてしまうような小さなことが、自転車だと肌で感じることができます。何だか面白そうなものがあるな、と思ったらすぐに止まる。見知らぬ土地で新しい発見をしたり、見聞を広めるような旅に、自転車はぴったりなんです。大げさに言うと、地球を肌で感じられる一番の遊び道具ですよね。
興味はあっても、なかなか一歩を踏み出せない人もいますが?
今持っている自転車で、となり町へ行くだけでもいいんです。
もちろん、なにもすごい所に行かなくても、となり町へ行くだけでも自転車のワクワク感は感じることができます。自転車に乗ることは、小さい旅の連続。あなたが今持っているママチャリだって、旅をするイメージで乗ってもらえれば新しい世界が拓けると思います。
自転車は旅の道具としても、スポーツとしても、趣味としても楽しむことができる。たくさんの魅力的な面があるのに、多くの人が移動手段としか認識していないのはもったいないと思います。
ではもう一歩ふみ込んで、スポーツとして楽しむときのメリットを教えてください。
「できる」という自信を持つことで、人生のクオリティが上がっていくんです。
人って何かひとつ「できた!」という自信がつくと、他のこともできるようになるんですよね。ランニングや自転車のようなエンデュランス系(持久系)のスポーツは、努力の度合いがはっきりと分かるので自信をつけやすいんです。こんな自分でもやったらできるんだという自信が、メンタルの強さになっていく。するとそのメンタルの強さが、今度は顔つきに表れてくる。その人の生き様まで変わってくるんですよ。すごいんです。
だからコーチとしては、小さい目的を達成させて少しずつ自信を持たせていくようにしています。
また、スポーツをしていくと自分の体に対して敏感になり、「体の声」を聞けるようになってきます。そうすると眠り方、目覚め方、食べ方ー生活のすべてが変わっていきます。生活のクオリティが変わる、それがスポーツのもたらすメリットで一番大きなことです。結果として人生の喜び、クオリティが高まることにつながるんだと僕は思っています。
レース会場に子供さんを連れていくことも多いと聞きましたが?
大人のがんばる姿を見ることで、心の引き出しを増やしてくれたら。
折りを見てはスポーツのシーンに子供を連れて行っていました。大人がホンネで本当にピュアに頑張っているシーンを見て、その空気に触れてもらいたくて。今の時代、そんなシーンに子供が出会う機会ってなかなかないですよね。
でもそういう場に立ち会った経験は、少しずつ蓄積して大人になったときにいろんな状況で生きてくるんじゃないかなと思っています。心の引き出しを増やすのは、モノより経験。自分自身がそれを感じることがあって、子供たちにもそうしてあげたいと思うようになりました。
その効果測定はできないし、すぐに数値に表れるようなことはないけれど、少しずつその子の引き出しになって、何かのときに生きてくれればと思っています。
自転車を安全に楽しむために、ひとつアドバイスするとしたら?
街なかは危険だらけ。一番大事なのは常に「予測」することです。
自転車を安全に乗るためのコツは「予測」、これに尽きると思います。街なかは、自分以外の人がいろいろな意図を持って行動しているわけで、とにかくリスクが高いんです。あの車がこんな動きをするかもしれない、あそこにいる子供が突然飛び出してくるかもしれない…。その可能性を自分のなかで予知しながら乗れているかどうかが大事です。何か起こったときに、想定していたことなら比較的対応できるけれど、全く予想していなかったり見ていなかったりすると事故につながってしまいます。
そして、「予測」をするためには「余裕」が必要。余裕というのは“気持ちの余裕”の他に、“視点の余裕”というのがあります。視野を広く取り、見るポイントを多く持つと、いろんな情報が入ってくるので結果として危険を予測できる。でもスピードが出てくると視野が狭まってくるので、自分が余裕のある視点で乗れるスピードに抑えることが大切です。
常に予測する、そしてそれができる余裕を持つ。リスクを軽減するために、それだけは心がけてほしいと思います。
常に想像力を働かせて自転車に乗るということですね?
自転車の楽しさを享受するためには、覚悟と責任を持つことも必要なんです。
自転車はスピードを簡単に出せる乗り物です。それが楽しさでもあるんですが、逆に事故になったときには被害が大きくなってしまいます。下手をしたら、生死にかかわるような事故になる可能性もある。楽しさを享受するだけでなく、その覚悟と責任は持って乗らないといけないですよね。
保険に入ることも責任の一環。車と同じで、どれだけ自分が気をつけていても起きる時は起きてしまう、それは仕方がないことです。ただそのときにどれだけバックアップがとれているか、そのひとつとして保険は有効だと思います。
今後の活動について教えてください。
スポーツを通してみんなを幸せにすること、それが自分の使命です。
僕はスポーツによって自身の世界を広げることができました。もしスポーツをやっていなかったら、今の自分はなかったと言ってもいい。だからスポーツに恩返しをしないといけないと思っているんです。スポーツの可能性、素晴らしさを一番知っている自分が、それを世の中に伝えていく責任があると。僕がスポーツナビゲーター(スポーツの案内人)というタイトルをつけている理由もそこにあります。
自然の中で自転車に乗ったり、走ったりしていると、細かいことなんかどうでも良くなってくるんですよね。こんな幸せなことないなって。そういう経験が、今の時代は少なすぎるんじゃないかなと思います。
トライアスロンに限らず、いろいろなスポーツをすることによって、ものの見え方、感じ方が変わってくるということがあります。目の前の些末なことにとらわれなくなり、ものごとを大局的に捉えられるようになると、その人の価値観そのものが変わってきます。
結果的に気持ちが豊かになって、その人の人生が楽しくなってくれたら、これほど幸せなことはありません。スポーツをやってよかったと言ってくれる人を1人でも増やしたい、それが僕の究極の目標です。
プロフィール
- 白戸 太朗(しらと・たろう)
- 生年月日:1966年11月1日 出身地:京都府京都市東山
中学時代からクロスカントリースキーなどのスポーツに親しみ、数々の大会で優勝をおさめるなど輝かしい実績を残す。今も現役トライアスリートでありながら、スポーツナビゲーターとしての活動を展開。TVスポーツ番組のキャスター をはじめ、トライアスロン⼤会やアドベンチャーレースのプロデュースやレースディレクター、大会MC、コーチングなど、選⼿⽣活で培った知識やノウハウを 惜しみなく還元。その他講演、セミナーなど多数実施。また2008年にはトライアスロンの普及のために「株式会社ATHLONIA」を設立し、代表を務める。
白戸太朗オフィシャルウェブサイト : http://www.maidotaro.com/
株式会社ATHLONIAウェブサイト : http://www.athlonia.com/