第2回にあたる今回は、NHK教育テレビ「チャレンジ!ホビー 自転車で旅をしよう」の講師を勤め、昨今ますます注目が高まるエシカル人・
栗村修さん
が登場。
もともと栗村修さんは、スポーツ専門チャンネル「J SPORTS」で自転車レース解説も務め、クリリンの愛称でも親しまれる人気スポーツコメンテイター。
そして、プロ自転車ロードレースチーム「宇都宮ブリッツェン」の監督を務め、さらには自転車漫画の監修など、広く国内自転車文化の振興に携わっていいます。
そんな栗村修さんがもつ熱い想いを通して、エシカルな自転車文化を学びたいと思います。
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- 栗村 修(くりむら おさむ)
1971年12月30日
神奈川県横浜市出身
高校を中退して、自転車の本場フランスに単独自転車修行を敢行。
帰国後は実業団チームで実績を積み重ね、1998年にポーランドのプロチーム「MROZ」と契約し渡欧。
その後はミヤタ・スバルレーシングチームで活躍し、現役を引退してからは、同チームで監督、シマノレーシングチームでスポーツディレクターを務めた後、現在に至る。
全日本実業団自転車競技連盟の委員や、「J SPORTS」の自転車ロードレース解説者も兼務し、その解りやすくサービス精神に溢れた解説にファンも多い。
http://twitter.com/#!/
osamukurimura
- 栗村 修(くりむら おさむ)
—– エシカル・サイクルの活動をしていく上で、何が一番大切だと思いますか?
自転車という、今はまだコアな分野においては、レースの事でもマナーの事でも、まず「自転車に興味を持っていない人に、分かりやすく情報を伝えること」が重要だと思っています。
自転車は、誰もが日常ふれる機会の多い乗り物なのに、スポーツとしての知名度はもちろん、その使い方やマナーについてあまり知られていないんです。だから、そもそも興味を持っていない人にどうやって伝えるかが普及のカギになる。これは常に試行錯誤して取組んでいます。
例えば、僕が今監督として所属している
宇都宮ブリッツェン
。レースの時の監督コメントって、つい何気なく「できるだけ上位を目指しています」なんて言ってしまう。でも、こう言ってしまうと、自転車レースに詳しくない人からすればどの程度が、そのチームにとって「上位」なのかがそもそも分からない。チーム規模を考えれば、今ブリッツェンが日本の主要レースで「3位」を取ったりしたら、すごい事なんですけど、それも多分伝わらない。だから、監督コメントでは、「こういう理由から、3位を目指しています」みたいなことを明確に伝えなきゃいけないし、繰り返し伝えなきゃいけない、と思います。
つまり、僕が今力を入れるべきなのはファンへのリアクションではなくて、ファンになる手前の人たちに対しての自転車の情報訴求。それを繰り返して、より多くの人に自転車ファンになってもらって、レースの事もマナーの事も「そんなこと、説明されなくても知ってるよ」って言ってもらえるぐらいになりたいですね。
—–宇都宮ブリッツェンでは、実際に、レースだけでなくスポーツ教育活動にも力を入れておられますね。
自転車のことをより多くの人に知ってもらう・・といった点では、宇都宮ブリッツェンのチーム自体が、自転車ロードレース活動だけではなく、宇都宮を中心とした栃木県内での自転車を主としたスポーツ教育活動を熱心に行っています。
その中でも特に「ウィーラースクール」という自転車先進国ベルギーのメソッドを活用した子ども向けの自転車教室に注力しています。今までの参加延べ人数は5000人以上。繰り返し行ってきたおかげで、今では自分たちの働きかけで開催することはなく、いろいろな地域から「ウィーラースクールを開催してほしい」というオファーをいただけるまでになっています。時には小学校や中学校単位のお問い合わせをいただくことも。2010年3月4日には栃木県警中央署から感謝状も頂戴しました。だんだんと活動が根づいているのを実感できて、うれしいです。
ただ、こういった貢献活動、実は選手にとっては、ある意味負担でもあるんです。他のチームだったら練習している時間を、そういった活動に充てているわけですから。でも、こういう社会貢献をしているからこそ、例えばスポンサーになってくださる企業さんが出てくる、子どもを含めた大勢のファンが付いてくれる。
選手達には「これが、僕がフランスやヨーロッパで見てきたプロチームの姿だよ」と伝えています。ブリッツェンの選手達が置かれているのは、これからの日本の自転車プロレーサーが目指していくべき理想の姿で、そしてプロのアスリート本来の姿だと思っています。
ウィラースクールだったり、エシカルサイクルだったり、こうした社会貢献を通して自転車文化を担うことこそが未来へ続く道なんだと信じています。
—– 社会貢献活動、と聞いてしまうとついつい堅苦しいイメージが付いてくるのですが、「ウィーラースクール」での子どもたちの反応はどうですか?
子どもたちは自転車レースを知らなかったとしても、生でプロの選手達を見る、それだけでとても興味を持ってくれるんです。
たとえば、絞り込まれた選手の身体もそうだし、実際に自転車を走らせる姿を見て、素直に憧れを抱いてくれます。この興味とか憧れの中で自転車の教室をするから、マナー意識を植えつけられると思うんです。とはいえ、スクールは教える場ですから、それだけでは中々愉しいことばかりではない。だから、愉しい要素を積極的に取り入れることを心がけています。
そういった意味でも、エシカル活動のこのキャラクター展開なんかは、コミカルでいいんじゃないかなと思います(笑)
—– 東日本大震災では、チームとしても様々な支援を行われたそうですね。
ブリッツェンでは、まず初めに栃木県の被災地に選手達が実際に支援物資(ミネラルウォーター1万本)を届けました。その後も、駅前で選手とサポーターで募金活動を行ったり、ブリッツェン主催の自転車イベントを開催。僕や選手が使用したジャージなどをチャリティーオークションに出品して義援金をお送りしました。
こういった活動は、もちろん実際に被災地にお送りする「物」や「お金」も大事なんですが、それ以上に「僕たちはやっています」「僕たちは続けて行きます」という「パフォーマンス」が大事なんだと思っています。
こんなに大きな災害ですが、それでも被災地支援の意識は時間が経つと風化していきます。だから、「パフォーマンス」を続けていくことによって、風化させない。また、僕らの「パフォーマンス」を通して、どう支援すればいいかわからなくて悩んでいたりする人たちを、被災地とつないであげることができる。
エシカル活動って、いわばこの「パフォーマンス」ですよね。今はこの自転車界で「パフォーマンス」できてる団体・企業ってほとんどない。だからこそ、そういった意味でもこの活動を盛り上げていければと思いますね。
—– 今後、-エシカル活動を行う上で具体的にどのような事が必要だと思われますか?
まず、道路というインフラの整備が必要だと思います。今のままでは、自転車がどこを走るのかということを、教えたくても難しい場合が多いんです。はっきり言ってマナー意識というソフトだけで解決できない気がします。自転車は車道を走るのか、歩道を走るのか概念が定まってないんですよね。いざ、車に乗ってみるとフラフラ走っている自転車は怖いし、逆に、歩いてみると歩道を走る自転車が怖い。これが正直な感想だと思います。でも単に、自転車を悪者にしちゃいけない。まずは、自転車がどこを走るのかっていうことを徹底するべきですよね。
同じように駐輪も場所があれば守れるのにインフラ不足で守られていないことが多いんじゃないかな?
たとえば、宇都宮市は駐輪場が増えているから、不法駐輪っていうのはあまり見ないんです。道も広くつくってあるから、町の中も自転車で移動しやすい。全体的に自転車が走りやすい町づくりがされていると思います。宇都宮市内はインフラが整ったおかげもあり、自転車がマナーよく動いているような感じがしますね。
—– これからのご自身の活動での目標を教えてください。
今後の私の目標は日本のレース界の整備です。今までミヤタ・スバルレーシングチームで6年、シマノレーシングチームで2年、そして宇都宮ブリッツェンと、さまざまな自転車レースチームに参加してきましたが、いくらいいチームを作ってもチームだけではダメだと痛感しました。チームは例えれば劇団みたいなもの。良い劇団員をそろえても発表できる劇場がないと活動できないんです。
劇場があって、お客さんが入って、様々なメディアに露出できて、スポーツとしての価値が金額換算してできるようにならないと、この先スポーツとしての自転車は成り立たないんです。
たとえば、今までの日本にも、ものすごい成績を出していたチームはありました。でも彼らの活躍が金額換算できるスキームが経済の中に組み上げられていなかった。だから悲しいんですけど、自己満足で終わっている。僕や自転車を良く知っている人はその活躍のすごさを知ってるんですけど、世の中には知らせることができなかった。土壌がなかった。もし日本にリーグがあって、プロ選手がたくさんいて、そこで経済が動いていたら、選手もそれにまつわる人たちも、たくさんの人に見て・知ってもらえたし、単純に収入がグンと上がるから職業としても成り立つ。いずれはJリーグのような、経済を生み出すリーグを作っていきたいです。
具体的には、ブリッツェンくらいの規模のチームが全国で20チームくらいできて、年間、国内で20レースぐらいできたら、立派なプロスポーツになると思います。
日本を代表する自転車ロードレース「ジャパンカップサイクルロードレース」には2日間で約10万人の観客が集まりました。これはプロ野球の巨人戦や日本代表戦より多いんです。コアな印象が強い自転車レースですが、実はスポーツとしての人気はかなりのもの。だから、それをコントロールするリーグがあって、リーグが大口のスポンサーを持ってタイトル金や放映権料を出せればある程度のリーグにはなると思います。
また、この自転車レースを各地で行う事で、地域復興にもなる。自然環境はたくさんあるけど他は何もない、っていうような町は、実は自転車にとっては最高の環境なんです。さらに他のスポーツのスポンサーと違って、自転車のチームは、1年間・約3000万円程度でできてしまう。企業や団体がスポンサーとして参加するコストがかなり低いんです。こういう他のメジャーなスポーツに負けないメリットがたくさん有る。だから、こういった事や、実際のチームづくりのノウハウを構築してもっと多くの人に伝えられたら、と思っています。それが今の私のリアルな夢ですね。
残りの人生はそこに費やしていこう、賭けていこうと思っています。